透析患者 苅田さん
20年以上透析している60代の苅田さんは病院で1,2を争うクレーマーだ。
針の刺し方から、ベッドへの誘導の仕方、声かけ、逐一クレームを付けてくる。
透析は腎機能が低下しているため週3回体の中に溜まった余分な水分を除かなければならない。
長いこと治療をしている患者さんが多く、病院の中でもコミュニティを作っている。
その中でも苅田さんは患者さんのリーダー的存在だ。
透析は毎日9時、14時、18時の3回の受付で患者さんが入れ替わる。14時は入院患者さん枠、18時は仕事をしている患者さんの枠、通院の患者さんは9時枠と決まっている。
送迎バスが巡回し、バスの席も自然と決まっているそうだ。
苅田さんはバスの時間の15分前には停留所に待っているという。
この前は新しい運転手さんにブレーキの踏み方を注意したらしい。
病院の中に入ると
「受付け職員が患者に気を配ってない」
と注意する。
「病院の受付けが下向いたままは最悪や。あの婆さんキョロキョロしとるやろ。どこ行っていいんかわからんのや。受付けが声掛けてやらんと。」
苅田さんは一番に待合い室の順番カードを取り、一番に指定ベッドに荷物を置く。
体重測定はそれからだ。
一度パート看護師が違うベッドに案内したらひどく怒られた。
「そのベッドは陽が直接射し込んでテレビが見えにくいんだ。俺のベッドはここって決まっとる。あんたもう2カ月目やろ?まだ覚えてないんか。」
苅田さんは医師、看護師、ソーシャルワーカーの入退職に敏感だ。
透析の領域なら病院職員より詳しいかもしれない。
「透析室の副主任さん異動したらしいな。透析室から緩和ケア病棟は大変や。」
新任の医師がどの大学からの医局人事なのか、どのくらいのキャリアなのかも知っている。
苅田さんは病院の清掃係にも目を光らせている。
「あの掃除屋さん(苅田さんはそう呼ぶ)は熱心や。掃除に行く前からゴミ拾うとる。」
職場に入る前に病院の入り口のゴミを拾っていたと褒めていた。
逆に廊下の隅を拭き残していたり、テーブルの拭き残しがあると即注意する。注意した後の態度が悪ければご意見箱に投書される。投書には院内接遇改善委員会が対応しなければならない。
ネット上で批判されるよりいいかもしれない。
患者さんにもクレーム
苅田さんは患者さんにも強い。
この前も透析中に看護師にわがままを言っている患者さんに、大声で
「うっせいわ。」
と言って喧嘩になりそうになった。
入院した時も大いびきの患者を夜中に起こして
「あんたのいびきは騒音や。個室希望してくれ。」
と言って夜中に喧嘩になりそうになった。
苅田さんは確かに逐一クレームを付けるけど、いちゃもんではない。
田舎の近所にいる怖いおじさんのような、どこかに思いやりがある。
心配なのは苅田さんのシャント(透析をするために腕の動脈と静脈をつなぎ合わせた太い血管のことが詰まりやすくなったこと。
苅田さんにはまだまだ風紀委員を務めてもらわなくてはならない。 MIKO
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