ホームシック新人②

夏休みを終えた敦美
敦美は5日目に鹿児島から帰ってきた。
朝、病棟に顔を出し「お休みありがとうございました!」と明るい声で言った。
「ご両親に甘えてきた?リフレッシュできた?」と声をかけると
「ご心配をおかけしました。頑張ります。」と相変わらずのイントネーションで恥ずかしそうに言った。瑠美も心配している様子がうかがえる、少しクールに喜んでいた。
休憩室には鹿児島名物の軽羹饅頭の箱が置いてあり「ご心配をおかけしました。」とメモが貼ってあった。何事もなかったように敦美は業務していた。外科の医師たちからも変わらずいじられている。
「久しぶりじゃない?夏休み?ホームシックで逃亡したかと思った。」デリカシーのない中堅の医師が直球で質問していた。敦美は満面の笑顔で答えていた。
それから数週間経ち、前と同じように敦美は明るい新人で、最近ではリハビリテーション科の同期の男の子たちとも仲良くやっている。

恋の力はすごい
瑠美が師長室にやってきた。
「私、新人教育に自信がないですよ。」ネガティブな言葉だが本心で言っていないのはすぐわかる。
「何かあったの?」
「この前敦美さん帰省したじゃないですか。てっきりホームシックで、家族と会わせてリフレッシュすればいいって師長さんも許してくれましたよね。私、敦美さんの電話番号聞登録してるから彼女のインスタグラムが見れちゃうんですよ。そしたら鹿児島の友達と遊んでる写真をアップしてるんです。おそらく4日間は遊んでますね。」
「そんなものよ。実家で泣いてばかりだったらご家族も悲しむもの。」
「それに明るく戻ってきた理由知ってます?」
「リフレッシュできたからでしょ?」
「違うんですよ、リハビリ科の高橋クンですよ。」
高橋クンは大阪出身のお笑い素質のある子だ。真面目で誠実な態度で周囲からも評判がいい。

「高橋クンからラインで励まされたらしいんです。それで初心に返って頑張ろうって思ったらしくて。最近恋している顔でしょ、敦美さん。あー、私の力なんて全然及ばなかった。」
「いい仕事が出来て、私生活も充実するものよ。その仕事の部分で瑠美さんは頼りにされているからね。恋の行方も見守ってあげて。」

職場恋愛には大賛成派である。仕事と家の往復よりもときめくエッセンスがあったほうがいい。今は大勢で遊びにもいけない。合コンやカラオケは禁止令が出ている。3名以上の会食も禁止、社員食堂も原則1人で摂る配置になっている。
翌月の休み希望から敦美は2か所きちんと希望していた。誰も強いてはないが、新人は休み希望をできるだけ控えるような雰囲気だった。エクセル表に希望を入れ、理由がある場合はコメントを入れるシステムだが、敦美はコメントに「私用があります。」と加えていた。  MIKO

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