7年目の看護師理央
7年目の看護師理央は最近機嫌がいい。
流行の曲を口ずさむなんて、わかりやすい感情の表現は若い子にはない。
昨日、理央がマグカップを洗いながら口ずさんでいたのは「サザエさん」のエンディング曲だった。
「あれ絶対この前の先輩とうまくいってますよね。」
休憩室で主任の早紀が言った。
30歳前の恋愛には人生がかかっている。
「夜11時くらいまで先輩と一緒だったはずですよ。」
看護助手の圭子が言う。
圭子はもうすぐ50歳になる。
面倒見がいいので中途者や部署異動者の相談役になっている。
「圭子さん知ってるの?」
「いや、その日ライン送ったんですよ。夜11時にようやく既読になったんです。ってことは23時まで先輩と一緒だったわけでしょ?」
なるほど。
「そんな日にライン送ったの?KY過ぎる~。」
「頑張れってスタンプだけですよ。」
「それで?返事はどうだったの?」
早紀が身を乗り出して聞いた。
普通、周囲の全協力で男と食事会に行ったのならば、協力者の前で報告しなければならない。決まりはないが常識だろう。
「恥ずかしがっているキャラクターのスタンプで〝アリガト″って書いてあるやつが返ってきたんです。」
「やったー、うまくいってないとそんなスタンプ返さないって。」
頑張れ理央
その日理央は午後6時過ぎても帰っていなかった。
比較的落ち着いていたはずだ。日勤者は誰も残っていない。
理央もとっくに仕事は終わっているはずなのに、図書室やパソコンで調べ物をしていた。
「理央さん、まだ何か残っているの?」
ナースステーションに戻ってきた理央に声をかけた。
「師長さん、何か文献探す方法知ってます?」
「文献?先行研究のこと?」
「そうです。インターネットで検索かけてもなかなか見つからなくて。」
聞くと理央は例の先輩から研究に協力してほしいと頼まれたそうだ。
大学卒看護師が望む看護の専門性について研究したいと。
そこで同じ大学の先輩や同級生、後輩数人に声をかけていた。
理央はそのひとりだった。
「〇-グル〇カラーの文献検索は?〇〇大学の図書室も一般利用できるし。」
「そんな方法があったんですね。検索してみます。」
「研究には協力するわよ。例の先輩は研究の話だったのね、皆気にしてるわよ。」
理央は頬を赤らめながら、堰を切ったように先輩の話をし始めた。
働きながら大学院に進んでいること。
休みの日は市民のバドミントンサークル活動に励んでいること。
輝いた目で語ってくれた。
「みんなもっと濃厚な恋愛話を期待してますよね。もうちょっと待っててください。」
今は話しても盛り上がらいことを理央はわかっているのだ。
「(研究)頑張ってよ!」
「師長さんありがとうございます!大学時代から憧れてたんですよ。チャンス逃さないように頑張ります!」
看護研究を仕上げるには約1年かかる。
研究も恋愛も見守るしかない。頑張れ理央! MIKO
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