夜勤のしきたり
私がまだメンバーとして夜勤業務をしていた10数年前まで、夜勤業務の妙なしきたりがあった。
夜勤は通常4人で16時30分~翌日9時まで看護業務をするが、その4人分の食べ物を持参する風習があった。
担当制でA子はデザート、B子は菓子パン、C子はスナック菓子、D子は飲み物というようにまるで遠足のおやつのノリだった。
中には夜勤者全員分の夜食を担当するツワものがいて、花見か運動会の弁当のような大荷物を抱えて夜勤入りしていた。それは大抵ベテランで料理自慢の看護師か助手、確かに小料理屋レベルの腕前だった。
「A子さんはいつもヨーグルト系だよね。私何にしようかな。」
「新しいポッキー知ってる?私それ買ってくる。」
夜勤を翌日に控えるとこんな会話が聞かれた。
今となっては不思議なしきたりだった。食べたいものを自分だけで食べられないのだ。
なぜ平等に人数分同じ物を買ってきて配給するのか毎回不思議だったけど、なぜか幸せな気分で持ち帰ったことも事実だ。
暗黙の決まりだが1個に付き値段は100円~130円。人数分だから400円~500円程度の出費になるが、1人分買ってもそのくらいはかかっただろう。
買ってきたおやつを物々交換するのは午前0時以降で、「ひと段落した」タイミングだった。
勿論一晩中不眠不休の夜勤もあって、そんな時は終業時の休憩室が物々交換タイムだった。
おやつ人数分禁止令
人数分調達するしきたりも不思議だが、禁止令も不思議だった。しかも病棟会というオフィシャルな会議の議題になり真剣な顔で議論したのだ。
「夜勤のおやつを人数分買ってくる慣例について意見を聞かせてください。」
「それって誰かが反対なんですよね。」
「ちょっとしたおやつを配るのもダメですか?」
「皆の夜勤分ごはん作ってくるのもダメ?」
「人によっては自分の好きなものを夜食として摂りたいのよ。」
過去にないほど意見が交差した。
結局夜勤の人数分のおやつ用意は禁止となった。
嘘のような本当の話だ。
今でもその慣習が残っている病院もあると言う。
ヤマザキの菓子パンはハツ子さん、たべっこ動物は千鶴さん、たらみのどっさりフルーツゼリーはハルちゃん、スープDELIのカップスープは私のテッパンだったな。
時々完全にかぶったりして大笑いした。
今思うと、過酷な夜勤を少しでも和ませるイベントだったかもしれない。 MIKO
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