ランナーズハイ
長距離走で使われる「ランナーズハイ」は夜勤明けの看護師にもよくある現象だ。
疲れを超越すると一時的な多幸感と高揚感に包まれる。ゴール直前までの体力の消耗は限界に近いのに、それまで以上の力を振り絞って出すことができる。
夜勤が忙しければ忙しいほどランナーズハイになる。
そのままディズニーランドに行けそうな体力があると錯覚してしまう。
放出したアドレナリンが体を休ませてくれない。夜中に飲んだエナジー系ドリンクは朝には効能が切れているはずだ。
ハイ状態は朝の申し送りでよくわかる。
饒舌で流暢に言葉が次々に出てくる。
声がデカい。
やたら走る。しかも走りながら人をかわす。
朝のナースステーションが汚い。
化粧が崩れてドロドロのテカテカになっていても気にならない。
汗で髪が額に貼り付いている。
帰ったはずなのに昼前くらいに
「申し送りで言い忘れたことがある」
と病棟に電話がかかってくる。これは間違いなくハイ状態だ。
大体、たいしたことない内容か解決済みの内容。
帰って眠れそうにないと街へ出かけ、普段買わないような高級菓子を買うことがある。
自分へのご褒美が看護師は多いのだ。
午後2時くらいまでは目が冴えているが、夕方頃になると体が悲鳴をあげ始める。
帰って泥のように眠るがこれは「気絶」と似ている。
ハッと目覚めると朝なのか夕方なのかわからない軽いせん妄状態に陥る。
夜勤の急変
病棟で夜勤明けにハイになる要素に夜勤帯の急変がある。
患者さんはいつ状態が悪くなるかわからない。
予期しない急変があると業務は一変する。ギリギリの人数で余裕なく業務している上に患者さんの急変があると、業務の割り振りをすべて変更しなければならない。しかも秒で判断する必要がある。
普段おっとりと夜勤している1年目、2年目も走る走る。
「板入れます。(心臓マッサージする時に背中に敷く板、これがないと体が沈んで効果的な心臓マッサージができない)」
「圧迫開始します。アンビュー(手動で酸素を送るバッグ)おねがいします。」
「救急カート用意しました。」
「ヘルプコールお願い。」
「末梢ルートキープOKです。輸液全開投与します。」
「挿管チューブ何ミリですか?」
「呼吸器スタンバイOKです。」
「DC(除細動器)準備OKです。」
「ご家族に誰か電話してる?」
連携なくして救命はできない。時々怒号に似た声も飛ぶがそれは救命第一だからだ。
夜勤帯の急変後は帰ってもなかなか眠りにつけない。
特に患者さんが一命を取りとめた時。医療者の連携がうまくいった時。
朝出勤すると一睡もしていない夜勤リーダーが駆け寄ってくる。
大変だった夜勤を早口でサマライズして伝えてくれる。
よく頑張ったね。ありがとう。
患者さんとその家族に代わってスタッフをハグする時が、一番幸せを感じる瞬間だ。 MIKO
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