滑り込みセーフの純
看護師歴10年目の純は去年、小児科病棟から外科病棟に異動になった。
小児科では真面目で優しく、患者さんや患者さんの家族にも評判がよかった。
外科領域を学びたいという純の希望もあって、去年の9月配置換えになった。
ひとり暮らし歴10年、趣味は食べ歩きと旅行というごく普通の看護師だ。
実習指導も任せられるし、来年くらい副主任はどうかと看護部管理室から言われている。
患者さんやスタッフ、新人、年配の助手さんにも優しい。
ただひとつだけ言わせてもらうと、純は病院でも有名な超ギリ出勤看護師なのだ。
純が出勤の時、階段を走っていない日はないとか。
ギリ出勤の理由
看護師はその日に受け持つ患者さんの情報を取るため、少しだけ早めに出勤する子が多い。余裕を持って出勤し、朝休憩室でひと息入れる子もいる。
滑り込み出勤が悪いとは言わない。時間には間に合っているわけだから露骨に注意はできない。
看護師は始業の前に全体の申し送りをする。
院内の情報や、新入院、手術の患者さんなどの申し送りだ。
そんな時肩で息をしながら純は登場する。
「セーフ!!」と誰かが口にする。
誰も言わない時は純が自ら言っている。
時には休憩室に行く時間もなかったのか、バッグを肩にかけたままの時もある。
一番驚いたのは靴がナースシューズじゃなく黄色のローファーだった時だ。
「新しいナースシューズ持ってくるの忘れちゃって、古いの捨てたんですよ。」
「それで仕事するつもり?」
「履きやすいんですよ、この靴。」
いや、それ違うでしょ。
その日純は、リハビリ患者さん貸し出し用シューズで一日仕事した。
「タイムカードは5分前に押してます。ここ遠いからダッシュで着替えて病棟に着くまで3分かかるんですよ。」
時々純が始業前に到着すると逆に皆驚く。
「おうちは近かったわよね、何時に起きてるの?」
「8時には起きてます。」
「8時半始業なのに8時?いったい何時に寝ているの?」
「看護研究とかやっていると2時とか・・。朝が弱いんですよ。」
「夜勤入りの時もギリギリでしょ。」
「昔からなんですよ、小学校の時から。いつもギリギリで。」
「無理に生活リズムを変えなくていいけど、せめてあと1分早く来れない?せめて休憩室に荷物を置いて申し送り聞かないと。」
「なんだか朝急いでいるとエンジンがかかるっていうか、モーニングルーティンというか。」
純は仕事のミスが全くない。
さぞかしおっちょこちょいかと思いきや、仕事となると超慎重派なのだ。
タイムカードを見ても遅刻は1度もない。見事なほどの5分前。
個人的には滑り込みセーフでも問題はない。
それに純の朝の必死の形相を見れなくなるのはちょっと惜しい。 MIKO
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