すぐ泣く主任
看護師のリーダーって、ぐいぐい引っ張るタイプばかりじゃない。
ロジカルに説明できるタイプばかりが管理者ではなく、10人に1人は
「なんであの子が?」
って思うような看護師もいる。
主任の早紀がそのタイプだ。郁美とは真逆のタイプでちょっとしたことで泣く。
医師に叱られた時、他部署の管理者に注意され時、新人みたいに涙ぐんでいる。
少し前まではトイレでひとしきり泣いていたから成長したほうだ。
嬉し泣きも多い早紀
早紀のいいところは、悲しい時や悔しい時の涙だけではない。むしろ嬉しい時に泣くことが多いかもしれない。
例えば、新人が1年経った時、
「頑張ったね、つらかったでしょ。ほんと自分を褒めてあげてね。」
と言っては泣いている。
部下の結婚式も、まるで母親のように泣いている。
予期せず誕生日のプレゼントを貰った時なんて、送別会かと思うくらい泣いていた。勿論、面談で私が褒めたらオイオイ泣く。
頼りない管理者と思われるかもしれないが、実はチーム作りにはキーマン的存在だ。
「泣いちゃってごめんね、頼りないよね。」
と早紀が言えば、後輩も泣いて
「いいえ、私も気持ちわかります。泣きたくなりますよね。」
と、何故か結束が強くなっている。
特に力を発揮するのはデス・カンファレンスだ。
デス・カンファレンスとは亡くなられた患者さんに対し、治療や看護、リハビリやソーシャルワーカーの介入の振り返りをする場だ。
「もっと家族との場を提供してあげられたら良かったと思います。患者さん、最後に娘さんの名前呼んでたんです。いつもは話せない患者さんが、はっきりと娘さんの名前呼んでたんですよ。それから血圧下がりだして娘さんに連絡したんですけど、娘さんが病院に来られた時は心停止していて・・・。」
早紀が涙ぐみながら話すと、リハビリ科の女子も泣いていた。
早紀が泣くのを、私は注意しようとは思わない。それが早紀の今の強みだからだ。決して弱みじゃない。
ある日連休明けの早紀が、泣き腫らした目で出勤してきた。
「遅ればせながら連休中に≪愛の不時着≫をノンストップで観ました。
んもう・・あのシーンとか、このシーンとか今でも泣けます。」
その日の昼休憩時間、早紀は≪愛の不時着≫のシーンを、大泣きしながら語っていたと言う。
実にいい性格だと思うよ、早紀。 MIKO
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