日本酒大好き陽子
11年目の陽子は酒好きで有名だ。その武勇伝は院内でも尾ひれを付けて噂されている。
利き酒会に参加して、周りは皆潰れたのに陽子は淡々と呑み続けていたらしいとか、新潟の「ぽんしゅ館」に行って5千円分呑んだとか。ぽんしゅ館は新潟を主とした名だたる酒蔵の酒を、500円でコイン5個に替えてもらい、コイン1個~3個でお猪口1杯を試飲感覚で呑めるお店だ。通常のコイン1個の酒を呑んだとして、50杯の計算になる。
つまみは「塩」だというから驚きだ。美味しかった日本酒の銘柄を次々に言うけど、酒に詳しくないからまったくわからない。
「やっぱり酒は新潟ですよ。水がいいから米がいい。米がいいから酒がいい。」と昭和のCMのように語る。
新入院患者の問診で、嗜好を聞くことがある。
「アルコールは飲まれますか?どのくらいですか?」と聞き、肝数値が高い患者には即指導している。
‟日本酒が好きで・・”という患者には「どこのお酒がお好きですか?」なんて事も聞いている。
「アルコールはほどほどにしましょうね。入院がいいきっかけです。入院中に病室でお酒を飲まれると強制退院になりますから。」と淡々と説明しているが、なんとなく陽子が自分自身に注意喚起しているように聞こえてしまう。
陽子の持論
陽子の休肝日は夜勤入りの日に限定される。夜勤が月5,6回あるから週に1度は休肝日の設定になる。夜勤明けで夜まで熟睡すると、2日連続で休肝日になるらしい。
「休肝日のためにも夜勤増やしてくださいよ。」と冗談混じりに陽子は言う。
「日勤のストレス解消は、絶品の日本酒に限る。」という持論に、
「それって酒に溺れてません?アル中じゃないですよね。」と周りが言うと
「いいお酒しか吞まないの、だから嗜好の域よ。安い不味い酒は呑まない。」
そう豪語するだけあって、陽子は血液データも問題ない。肌も院内で1,2位を争う美肌の持ち主だ。
「酒好きは料理の腕も上がるのよ。」
たしかに陽子のお弁当は下足の天ぷらや、キュウリの和え物、きんぴらごぼうと言った小料理屋の一品料理もどきばかりだ。
「結婚相手は日本酒が好きな人がいいですね。こう見えて料理は得意なんです。酒に合う料理を作って、美味しい酒を呑みながらつまむのが一番の幸せ。」今年33歳になる陽子も結婚願望はあるらしい。一人で呑みながら、将来の理想の晩酌像を思い描いているのだろう。 MIKO
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