8年目の外科ナース①

「師長さん、お話があります。」周りに人がいない時にスタッフから声をかけられるとドキッとする。大体話の内容は
①退職
②人間関係の悩み
③結婚
の3つに分類できる。③であれば喜ばしいことだが、①+③の場合も多い。退職シーズンは大まかに正社員の場合ボーナス支給後だから、5月~8月、11月~2月にこの言葉がかかると退職を予想してしまう。この前も入職8年目のベテランA田が声をかけてきた。
入職からずっと外科病棟勤務で独身、彼がいる話も聞いたことがない。料理が趣味で料理教室に通っているが、コロナの影響で教室が休みになったと嘆いていた。

「何?どうしたの?」
「師長さん、実は・・退職を考えてます。」
(考えてますはまだ引き留められる)
「退職を考えているのね?良かったら理由を聞かせてくれる?」
「もう外科病棟も8年目でそろそろ他の領域を勉強したくて・・」
「そうね、もう8年目だよね。リーダーもA田さんなら安心だものね。例えばどんな領域を勉強したいの?」(信頼しているということを少しづつ出そう)
「ERとか、循環器とか・・」
この時即座に「うちにもあるじゃない、異動ではだめなの?」と言ってはいけない。
「ERも循環器も勉強になるよね。A田さん循環器得意だよね、この前も術後の患者さんの異常を発見してくれた、って先生が褒めてたわよ。」
「はい、あの時は焦りました。新人が担当した患者さんだったので気にかけていたんです。」
「頼りになるわ。循環器の勉強会もお願いしたいわ。」
「それで、救急とか、循環器の専門の病院に転職したいと思って・・。」
「高次(重症患者さんを受け入れる救急病院)病院で勉強したいのね?」
「そうです。若いうちしか出来ないかなって。」
「すごいねA田さん、ホント感心する。」
「このまま外科にいながら循環器の勉強するか、迷ったんですが。外科も好きなんです。
この病院もいい人ばかりだし・・。」
「それはA田さんが人間関係を築いてきたからよ。でもこの病院にはA田さんが必要よ。この病棟でもまだまだ指導してほしい。どうなっても私はA田さんを応援してるから。もう一度よく考えて出した結果を教えて。」

幸い、A田さんは次の転職先を決めていなかった。
こんな時「もう次が決まっているんです。」と言われたら管理者も平常心を装うのに必死になる。看護師も8年目となると自分のキャリアを考え始め、学び続けるか、もっといい待遇がないか、管理者を目指すか、専門分野に進むか目の前の分岐路に迷うことがある。
周囲からA田さんの退職の話が漏れなかったという事は、周囲にはあまり相談していないのだろう。

A田さんとの再面談は1週間後。あの後妙に張り切って仕事していたA田さんがほほえましくなった。   MIKO


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