A田さんが退職希望を私に伝えた翌日、病棟の瓦版屋とも子が私の出勤を待ち構えたように言ってきた。とも子は夜勤だったから、どこかでA田と私が話す様子を見たのだろう。
「師長さんおはようございます。昨日A田さんと話してましたよね?もしかしてA田さん退職・・とか?」
「どうしてそう思うの?」
「だってA田さん神妙な顔してたし、最近循環器勉強したいわって呟いてたし・・。もしA田さんが退職になったら夜勤組むの大変ですよね?私夜勤専従でもいいくらいなんです。A田さんの分夜勤ください。」
とも子は噂では他の病院で夜勤バイトをしているらしい。3年目にしてはリーダーシップもあるし姉御肌でもある。いずれ認定看護師か国際看護師を目指したいと新人の頃から面談毎に言っていた。
「想像で物事を進めないでね。ほら、助手さんたちモーニングケア(患者さんへ朝洗顔介助や口腔内のケアをすること)でバタバタしてるわよ、はい頑張って。」
面談の日、A田さんは終業後晴れやかな顔で師長室にやってきた。
「師長さん、結論から言いますね。私、もう少しここで頑張ります。この前の新人さんの心電図異常波形も、私達が指導していかないと・・。」
私はオーバーリアクションに喜んだ。
「外科も好きですし、今後心臓リハビリや心電図検定受けて資格取っていこうと思うんです。」
「A田さんならすぐ受かるわよ。私に教えてくれる?」
「師長さんに教えるなんてとんでもない。」
その後私達は2時間くらい色々な話をした。A田のいいところは人の噂話をしないところだ。自分の描くキャリアを熱く話してくれた。
「心臓リハビリと心電図検定前には有給もらいますよ。たっぷり残ってますから。」
そう言ってA田は帰っていった。
A田の未来を応援する気持ちよりも、離職者を止められた安堵感の方が強かった。 MIKO
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