救急外来1年目医師
研修期間2年、外科領域数年を経て30歳を目の前にした正幸先生は、この春から救急外来領域に配置転換を希望した。外科チームは大反対したが本人は「コロナ禍の救急の現場に加担したい。」と意思が強かった。
正幸先生は向き不向きから言うと、救急外来も、実は外科も向いていないのではないかというくらいおっとりした性格だ。両親は四国で内科・泌尿器科を開業している。いずれその後継者になるだろう。外科病棟看護師からは「話がしやすい」と高評価だった。話しやすさも田舎の開業医には必須だ。
激痩せ正幸先生
正幸先生が救急外来に配置変更になり約5か月。まず激痩せした。やつれた瘦せ方ではなく目もくっきりと筋肉質になった感じだ。そんな正幸先生がある日の夕方、数か月ぶりに外科病棟のカンファレンス室にいた。
「先生救急外来で活躍されていますね。記録も分かりやすいし家族に寄り添っている様子が伺えます。」
「しかし先生だいぶお痩せになりましたね。」
「サウナスーツ着て仕事しているようなもんなので痩せましたよ。おまけに患者さん抱えること多いから筋力も付くし。」外科時代には見せなかった笑顔で正幸先生は話した。
「この前の夜間急変も対応していただきありがとうございました。」
「僕、実を言うと院内の急変とかCPA措置(心肺蘇生)って苦手だったんですよ。多分看護師さんたち気付いてましたよね。何やればいいかパニくっちゃって。いつも逆に指示してもらってたりして。当直の時なんか『何事もありませんように』って祈ってましたから。」
「コロナで大変でしょう。救急外来の先生、スタッフたちには感謝しかありません。」
「コロナで大変なのはどこも同じですね。救急外来に行って良かったのは、生きる事の意味がなんとなくわかってきたと言うか・・。いや、まだまだなんですけどね。」
こんな生と死や倫理感を話す医師は必ず大成すると信じている。救急外来から私のPHSに電話がかかってきた。あきらかに怒り口調の救急外来看護師だった。
「正幸先生そちらですよね?PHS救急に置きっぱなしです。それにさっきの患者さん、コロナのPCRと抗原検査また間違ってオーダーしていると伝えてください!」伝えなくても筒抜けに聞こえたようだ。 MIKO
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