本怖話
よくドラマで病院の怖い話や、廃墟になった病院をお化け屋敷に見立てた特集がある。
大抵手術室が最強の見せ場になるけど、実際は救急外来か病棟。
手術中に亡くなるケースってかなりレアだし、メスで切られて実験されたような設定が多いけど昔も今も病院でそれはないでしょ。
夜勤の時よくあるのが、怖い体験のトークショー。
大体自称霊感が強い先輩がいて、体験談を語ってくれる。
本人は気付いていないが、何回も同じ話をして、それが少しづつ盛られているから信憑性に欠ける。
例えば5歳くらいの女の子が翌年男の子になったり、見知らぬ5歳くらいの子がじっと立っていた話だったはずなのに次に聞くと襲ってきたり・・。
一応礼儀として怖い素振りをするが時々ツッコミを入れたくなる。
本当に霊感が強い看護師に共通するのは、「わけもなくじっと人を見ている」看護師だ。
ぼんやり見ているのではなく、目的を持って見ている(表現ムズイけど)。
視線を何気なく感じて目線をあげる目が合ってしまうパターンの人。
救急外来の圭子さんは自称ではなく誰もが認める強い霊感の持ち主だ。
彼女の本怖話は怖すぎると職員の中では有名だった。
「〇川淳二より怖いんですよ、ホントに。」
「しかも何故か話している時に妙な音がするんです。」
私的データベース通り、圭子さんはよく人をじっと見ている人だった。
私も何回か視線を感じ、圭子さんから見つめられていたことがある。
圭子さんは救急外来でキャリア20年以上のベテランだ。
圭子さんの夜勤の時は、何故か交通事故外傷やCPA(心肺蘇生状態)の患者が搬送される率が異常に高いという。これはたまたまだと思っている。
圭子さんは週末の夜勤が多いし、そう偏っているわけではない。
トイレに連れていった患者
私は科学的ではないことを信じるタイプではない。
怖い話はバラエティーだと思っている。
ただ、1度外科病棟の看護師がインフルエンザに同時に数人罹患し、夜勤がどうにも回らなくなった時があった。
その時ヘルプに来てくれたのが圭子さんだった。
その晩のエピソードは不思議を超えていた。
異常に忙しい夜勤だったようで、膵臓癌末期の小野さんが治療の甲斐なく亡くなられた夜だった。重症の患者さんはあらかじめナースステーション近くの個室に移されるが、小野さんも2日前からその個室だった。
圭子さんはヘルプだったためオムツ交換や体位交換、軽傷の患者さんを受け持ってもらっていた。
不思議なことに圭子さんは、小野さんが亡くなった後に排せつ介助をしたというのだ。
「小野さんドアのところで『トイレに行きたい』って顔出してたの。個室のトイレで介助したけど失禁されていてオムツ変えたんだもの。」
「どういうこと?3時に心停止されて、今家族さんを待っているところなんだけど。心停止から30分以上経ってトイレ介助ってこと?」
これにはスタッフがざわついたらしく、小野さんが本当に心停止か確かめようとしたが、怖くて1人で病室に行けなかったそうだ。
小野さんを確かめるとベッドサイドモニターは直線で、ゼロの数字が赤く点滅していた。
小野さんも穏やかな顔で眠られていて変わりはなかった。
モニターを恐る恐るリコールしてみると、3時31分に筋電図(正式な心臓の波形ではなく細かく震えたような波形のこと)のようなアラームの履歴があった。
その朝、夜勤スタッフからその話を聞いた時何気なく圭子さんを見ると
圭子さんはじっと小野さんの部屋を見つめていた。
おそらく小野さんは家族が来る前にオムツを変えて欲しかったに違いない。 MIKO
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