採血が上手い看護師②

職員健診
病院では毎年春と秋に職員健診がある。
春と秋では夜勤をしているか否かで検査項目に違いがある。
レントゲン検査、心電図、尿検査、採血検査があり、異常があったら専門の科を受診しなければいけない。

病棟では職員健診の採血は新人看護師の役目となっている。
春の健診時期は5月~6月だ。
採血のため新人に腕を差し出すのはこちらも緊張する。

「師長さんの採血やってあげて。師長さん血管出てるから大丈夫。」
指導者からそう言われると新人もプレッシャーがかかる。

案の定、新人は手が震えていた。
採血の時にセリフも決まっているがめちゃくちゃだ。
震え方も尋常じゃなかった。
見ている側が恐いくらい。

事務系や医局(医師たち)は外来の採血センターにやってくる。
ここでも採血の腕前院内ナンバーワンの時子さんはモテモテだ。
職員健診は数週間の間、時間は午後2時から4時までと決まっている。

外科部長はあからさまに
「今日時子さん休み?明日は?僕血管出にくくてね。明日時子さんに採血してもらうわ。」
と言って出ていった。
秘書課主任は採血センターに用事があるフリをして偵察してきた。
時子さんが出勤とわかると、部下を連れてやってくる。
「採血のあと内出血する若い子が多いのよ。時子さんって内出血しないでしょ。」

新任の副院長が時子さんの噂を聞いて
「時子さんは一発で取ってくれるって聞いたもんだから。いや、血管が細くてね。」
と時子さんに細い腕を出した。

「1回で採血できる&痛くない」が売りの時子さんに、私も数回採血してもらったことがある。
風邪気味で外来受診した時だ。
本当に痛くなかった。
チクリとしただけだった。
職員も患者さんも指名したくなるはずだ。

全く出ていない血管をどうやって当てるのだろう。
「血管がない人間っていないじゃない。」
と時子さんは笑う。

採血のカリスマ
なんとなくコツはわかった。
「ハイ刺しますよ~、チクッとしますよ~。」
なんて言わない。
たわいもない話をしながら、狙いを定めたらためらわずに刺す。

真剣過ぎる形相をしない。
真剣過ぎて怖い形相は若手にありがち。
刺すポーズを何回もしない。

自信を持って採血する。
自信を持つと患者さんは安心する。

時子さんも職員だから、誰かに採血してもらわなくてはならない。
時子さんは毎回若手か、ブランクのある中途採用者に任せている。

「あら、全然痛くなかったわ。上手ね~。」
時子さんから褒めてもらった看護師は採血が上手くなるらしい。  MIKO


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