ホームシック新人①

鹿児島大好き敦美
敦美はこの春、鹿児島の看護専門学校を卒業して入職してきた。明るい性格で訛りを恥ずかしがらず、時々スタッフや医師たちからもキツイ訛りを真似されいじられていた。いじられても「ちごっ!ちごっ!(違う違う)」と返し、さらにいじられるパターンを繰り返していた。
患者さんウケもよく、鹿児島出身の患者さんからはすぐ鹿児島出身とわかるらしく、「かごんまのどこ?」とアップダウンの効いたイントネーションで聞かれていた。
新入職者の自己紹介の時も、薩摩弁丸出しで話し、新人教育担当者から
「通訳が必要ね。」と言われ、会場の緊張が和らいだ。

プリセプター制度
敦美の指導担当は同じく九州福岡出身の瑠美だった。今年5年目の瑠美は教育や病棟勉強会開催に熱心な子だ。今は新人担当者は協会の研修を受けるよう推奨されている。瑠美は去年自らすすんで研修を受けた。
「福岡とかごんまはちごっ!」と九州の中でも福岡は羨ましがられる大都会だと言うことを、敦美は真ん丸の目を更に丸くして話した。そんな敦美を、瑠美は妹のように指導していた。プリセプター制度は1対1で臨床実践を指導する。プリセプターは指導する看護師、新人はプリセプティと言う。病院によってそれぞれの取り組みをし、看護師のリアリティショックによる離職防止や、実践力・論理的思考力を養うプロセスに役立っている。

瑠美は「新人が夜勤入りするまで、自分の夜勤も減らしていい。」と新人教育への意気込みも感じられた。
瑠美の指導は熱心で、敦美の新人日誌に毎日目を通し、返事(ほぼ交換日記)も挿絵を入れて書き、周りからもイラストが可愛いと褒められていた。褒めるだけではなく、所謂アメとムチを上手く使っていた。
「今は、業務終了後残して指導したらダメなんですよ。働き方改革で残業も厳しいし、ゆとり世代ですから。」そう言う瑠美は敦美より何歳も上に見えた。

突然の涙
新人に多くあることだが、入職時明るい、仕事に積極的な子に限ってメンタルが持たない子が多い。自分の本音を隠そうと虚栄で明るく振る舞う。敦美もそのひとりだった。
敦美が昼休みに急に泣き出した時「やっぱりね。」と思ってしまった。専門学校から1人で地方から入職してきた子が、近況報告で出身校の子たちとSNSを通じてやり取りしているうち、どうしようもない孤独感が生まれる。まわりは同じ出身校や、付属の看護大学出身校の新人看護師同志で群れている。敦美は、昨日鹿児島の両親や祖父母と動画通話をしている時に嗚咽して泣いてしまったと話した。このコロナ禍でゴールデンウイークも夏休みも鹿児島へ帰省できていない。4月から時々鹿児島の両親や、祖父母とビデオ通話をしているらしいがここ最近動画通話をしている最中泣いてしまうらしい。

その日の夕方、プリセプターの瑠美が提案しに来た。
「敦美さん帰省させたらダメですか?このところミスも多いんです。この前も10時の抗生剤準備中に14時の抗生剤取り出していたし、昨日は患者さんの昼食ひっくり返したし。元気ないんです。」
「そうね、夏休みと有休で少し休暇取ってもらいましょうか。ワクチンも2回済んでいることだし。」
このことを敦美に話すと、顔をぐしゃぐしゃにして泣きだした。条件は1週間以内の休暇であること、必ず戻ってくること、心が疲れた時は無理して明るくせず、誰か傍にいる人に話すことの3つを挙げた。
こうして敦美は1週間鹿児島に帰省することになった。瑠美も敦美の休暇中は連絡はしないと言っている。

敦美は帰ってきてくれるかな。  MIKO

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