寡黙な看護師リーダーのその後

パーフェクトな綾子サマ
電子カルテ導入直後、ITに強い先輩綾子サマが看護リーダーを任されていた。誰よりも電子カルテを使いこなし、指示受け漏れの嵐だった中で、唯一ノーミスな綾子サマ。

そんな綾子サマがリーダーの時、患者誤認が発生した。
原因は綾子サマの伝達不足。その日の夕方、ミスに対し部署でカンファレンスが開かれた。
綾子サマは表情を変えず、
「電子カルテ見たらすぐ同姓注意の赤アラートが点滅するんでわかると思います。」
すかさず反論、
「新患(入院患者さんのこと)の時は更新しないと電子カルテに反映しないんです。」
態度を崩さず綾子サマ、
「1時間に1回更新するの常識でしょ。」

湧き出た不満
この言葉がきっかけで湧き出た綾子サマへの不満。
「指示受けだけじゃリーダーはつとまらない。」
「メンバーが業務で残業しているのにひと言もなく退勤する。」
「他の部署からも不評。」
「黙々とリーダーするだけじゃ部署の雰囲気が悪くなる。」
などなど。

当時5年目だった私は、師長から意見を求められどっち付かずの返事をした記憶がある。ひとつ下の子がメモ用紙に「怖いよ~!」とイラスト付きで書いて見せた。当時の師長は、どちらの肩を持つでもなく平等に意見交換させていたが、患者間違いをしたことに対しては厳しい口調だった。患者さんを受け持っていた当事者はカンファレンスが始まる前から泣いている。

綾子サマの涙
パーフェクトリーダー綾子サマの頬にひとすじの涙が落ちたかと思うと、綾子サマは号泣した。
綾子サマ自身も必死で、電子カルテが導入されて混乱していたのだと泣きながら皆の前で話した。
「間違えがないか不安で、正直余裕が全然なくて。」
綾子サマは部署に配布された電子カルテ取説をコピーして、家で何度も読み直したらしい。

その後、師長はじめ、先輩方はオイオイ泣き始めた。正直、感動系の演劇を観ている感覚だった。それよりも終えていない看護記録が気になった。

その後の綾子サマ
それから綾子サマはリーダーの時はスタッフに細かく話しかけるようになった。時々指示漏れがあるから、以前は確かに必死だったのだろう。

翌年、綾子サマはICUの副主任に昇格し、師長を経て現在副看護部長だ。教育研修ではあの時の経験を話してくれる。
「傲慢だった自分に気付かせてくれた恩人たち」と当時のスタッフのことを呼んでいる。

綾子副部長が必死でデスクワークをしている時、何を話しかけても聞こえていない。リーダー業務に必死だったあの時のままだ。  MIKO

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