師長の退職

正美師長の退職
永年勤務した師長が突然退職することは珍しくない。
理由は人それぞれあるが、正美師長の場合はあきらかに看護部長の嫌がらせだった。

正美師長は勤続28年目で、10年前関連施設に出向の際も嫌な顔ひとつせず引き受けた。
もともとクリティカル分野が得意で、認定看護師制度が始まって間もない頃に資格を取った強者だ。そこらの医師よりアセスメント力に優れている。
そのおかげで経験の浅い医師や看護師から慕われ、圧倒的な支持を得ていた。
呼吸ケアチームの副委員長の正美には、チームメンバーの医師が患者さんの様子や検査結果について尋ねるほどだ。専門ではない病棟で人工呼吸器管理が必要になると、すぐに指導に行くフットワークの軽さでどの師長からも慕われていた。
そんな正美師長を疎ましく思う医師や看護師がいるはずがなかった。

2年前、看護管理部の命令で正美師長は呼吸ケアチームから栄養チームに変わることになった。
「正美師長が今呼吸ケアチームから外れたら大変なことになります!」
医師や師長たち、主任たちが看護部長に訴えても部長は頑なに拒否した。
「他の師長さんたちも勉強しなくちゃ。正美師長さんも栄養のことも勉強してほしいのよ。正美師長さんならきっと栄養の先頭に立ってくれるわ。」
その言葉通り、正美師長はこれまで関わってこなかった栄養分野を猛勉強し、半年もたたないうちにこれまた医師や看護師から圧倒的支持を得ることになった。

拒否権なし?
とうの正美師長は
「最初は嫌だったんだけど、栄養って奥が深いのよ。今では感謝してる。」
と恨みのひとつも言わない。
そんな正美師長にこの新年度部署異動があった。
回復期リハビリテーション病棟だった。呼吸ケアやクリティカルケアと程遠い病棟だ。
さすがに正美師長は異動の理由や、専門分野ではないことを部長面談で説明し続けた。
最終的に部長は、
「人事異動は拒否できないのよ。」の一点張りで、正美師長が出した答えは退職だった。
「私は不要な人材みたいよ。異動命令には拒否権がないんだって。リハビリテーション病棟が嫌というわけではないの。」
正美師長のさっぱりとした口調にあきらめた様子がうかがえた。
部長はというと保身に精いっぱいだ。

どう見ても部長の嫌がらせとしか思えない。
院長、副院長には
「看護管理部に正美師長を副部長として迎えるために、経験値を上げようとリハビリ病棟を打診したのに、他にやりたいことがあるって聞かなかったんです。」
と苦しい言い訳をしていた。
それなら「退職」という言葉が出た時に「あっそう?」なんて言う?
正美師長は5月15日付けで退職、今有休をハワイで過ごしている。

出る杭は打たれる。怖い業界であることをまた痛感した。  MIKO




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