男運がない師長由紀①

同期の由紀
地域医療センターの師長由紀は同じ新人で入職した同期だ。
同期は関連施設に2人いるが、同じ病院内には由紀しかいない。
産休や育休、長期研修で病院を不在にすることはあったが20数年同じ職場で働いている。
同じ部署に配属されたこともあって、同期の中で由紀とはすぐに打ち解けた。
一緒にいて落ち着いたし、先輩に叱られた時も励ましてくれた。
私にとって由紀は恩人だ。

モテる美人タイプではないが、左頬に出るエクボと垂れた目が愛くるしい。今でも若い頃の面影を残している。
ただ、由紀はとにかく男運がなかった。

お金を巻き上げる彼
入職して2年目、由紀に彼ができた。
彼とは近所の居酒屋で知り合った。何度か病院の宴会をするうちに親しくなり、由紀が居酒屋のトイレに立ったところに連絡先の書かれたメモを渡されたそうだ。
彼の名前はノブと言った。長身で顔もまあまあだった。当時しょうゆ顔、ソース顔という言葉が流行っていて、
「ノブってしょうゆ顔でしょ。バッチリ好みなの。」
と由紀は頬を染めていた。

由紀とノブは付き合いだしてすぐ同棲を始めた。
「家賃は私持ちなんだけど、料理とか作ってくれるんだ。それが美味しいんだわ。」
由紀は嬉しそうに話した。
よく聞くと、家賃だけじゃなく生活費全般由紀が負担していた。

夜勤明けにノブはバイクで由紀を迎えに来た。
まだ携帯電話は主流ではなかったから、夜勤が終わるとすぐに由紀は公衆電話に走っていた。

1年くらいたった頃から、度々ノブを病院で見かけるようになった。
「あれっ、ノブ君仕事じゃないの?」
由紀に聞いたことがある。
「うん、腰痛めたらしくてさ。今休職中なんだ。」
最初は病院の出口で待っていたのが、時々病棟まで上がってくることもあった。

「ノブ君、仕事中はダメ。」
由紀はノブ君をリネン室の前まで連れて行き、こそこそ話していた。

その姿から私達は由紀がお金をせびられていると簡単に想像できた。
由紀はユニフォームのポケットにいつも3千円入れていた。
素早くお金を渡したほうが仕事に支障がないからだ。

由紀とお昼休憩が一緒になった時由紀のほうから話し始めた。
「気付いてるよね、ノブ君が私にお金せびってるの。おかしいでしょ、たった3千円だよ。たばこ代とパチンコ代。」
「ノブ君、仕事しないの?」
「資格もないし、腰まだ痛いし、今は充電期間だって。」
(それ放電だよ、由紀)

ノブは半年間無職だった。
その半年間、由紀が仕事の時は毎回お金をせびりにやってきた。
定額でお小遣いをまとめて渡したこともあったらしいが、1日で使い切ってしまったそうだ。

由紀は当時の師長に呼ばれ、私生活と仕事を切り分けるよう注意された。
由紀は仕事でミスはしなかった。
若い看護師がやらかすようなミスもほとんどなかったから、仕事と切り分けはできていたかもしれない。
患者さんにも優しかったし、
「うちの息子の嫁に」
と真顔で言われることもあった。

「ノブ君ってああ見えて真面目なんだよ。だって私のお財布からお金盗らないもん。
わざとテーブルの上に置いてても盗らないんだよ。」
由紀は何故か自慢げに言った。

由紀、男見る目ないよ。目を覚ましてよ。
もっと強く言ってあげるべきだったな。  MIKO

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